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さくらの咲く頃に 1

 君のことを語ろうとすると運命と言う言葉なしでは語れない。今まで運命なんて信じてなかった。全ては偶然によって巻き起こされる奇跡であり、運命なんてものはないと。でも君に会うことが出来たのは奇跡という運命の歯車からはみ出た必然だと思う。




                       序章 出会い


 寒々とした冬が終わり、春を感じる高校1年生の4月中旬。でも外ではまだ寒い風が吹き、日の入りは早い。しかし、その寒い日に負けないとするがごとく桜が今週の日曜日には満開の日を迎えるらしい。
 塾の教室の窓から見える市民公園の桜並木は23時近くという暗い夜の中でも、うっすらと見える。21時まではライトアップされているがさすがに2時間近くも経った今では電気は消されているのでぼんやりとしか見えない。さっきまでは電気がついてたから蕾と微かに咲いた花が綺麗に見えたんだけどな、と日高結菜はため息をついた。
 聞くところによると今週末の、つまり6日後の日曜日にこの市民公園の桜並木で桜が咲くことを祝う桜祭が開催されるらしい。きっと屋台がそこらじゅうに出て多くの人で賑わうことだろう。
 桜祭が土曜日なら塾があるので塾帰りにでも行けるのだが、日曜日には不運なことに塾はないので、桜祭には多分来ることはない。俺はこの市の住人ではなく、この公園は家から電車で20分近くかかるところに住んでいることも来ることがない理由の1つだ。
 祭は好きだが、祭で会うことのできる人が知らない人、というだけでは物寂しい。屋台も楽しいが、お祭りの醍醐味は中学校のときの知り合いに会えるということではないだろうか。
 朝見たテレビの天気予報では来週の水曜日まで晴れが続くらしいので、中止は運が悪くないとないはずだ。行くことはないと思うが、参加する人のために雨が降らないことを祈った。
 昔、俺の近所の桜並木で行われていた桜祭は、来場者がここ十年で激減してしまい、一昨年から廃止された。戦後から続いていた長い伝統を持つお祭りなのに無くなってしまうのはもったいない。幼い時から毎年参加していた俺個人としては続けてほしかったが、客が激減してしまったのではしょうがないだろう。きっと実行委員会の人も泣く泣くの決断だったと思う。
「こらー、日高。黒板見なさい」
 塾の授業のことを忘れて外を見ていたので塾の講師、春川先生に注意された。しまった、と思い慌てて黒板に向き直る。
 春川先生は俺が前を向き直るのを確認すると板書を再開した。チョークによる字はお世辞にも綺麗とは言えない。
 この春川先生というのは、40代前半くらいの結菜の通う塾の数学の講師だ。生徒のことを思った授業をしてくれて俺は結構好きである。
 普通の予備校では、生徒の不真面目を指導してくれる心優しい先生は少ない。いたとしても説教が加わるということになってしまう。が、春川先生は冗談を言うように注意してくれるのだ。
 時計を見て時刻を確認すると、外を見ていたのは5分くらいになる。5分も授業のことを忘れて外を見ていたらさすがにばれるだろう。
 ただちょっとだけ夜桜が見たかっただけでそんなに長い間見てるつもりはなかった。しかし、うっすらと見える桜を綺麗だな、と感じてうっとりしてしまい、時間が過ぎ去るのを忘れてしまった。正直、ばれるとかいうことはあまり考えてなかった。
 俺は慌てて板書に勤しむ。黒板には見ていない間にだいぶ進んでいた。最後に見たときには1番新しかった数式が、5分の間に消される予備軍に入っている。
 俺は慌てて板書した。せっかく親に高い受講料払ってもらっているのにノートもまともに取れないようじゃ、親に会わす顔がない。急いで黒板に新しく書かれたのを書き終えるとその直後に書いた部分が消された。セーフだ。
 しかし、急いで書いた分、字が汚くて後から見直したときに読めなくて苦労しそうだ。綺麗に書き直そうとも思ったがそんなことをしている余裕は当然なく、黒板には新しい公式やら問題やらで埋まっていく。
 その黒板に書くのに合わせて春川先生は黒板の説明を口頭でしている。その説明も逃さないように必要に応じて赤ペンや青ペンを使いノートにメモしていく。
 教室は春川先生の声とチョークで黒板に書く音、生徒達のシャーペンでノートにメモる音一色になる。俺もその一員になって音を増幅させる。時にノートに字を書く音、時に消しゴムを使って机が揺れる音。
 そんな音で満たされた空間に突如他の音が混ざった。
 キーンコーンカーンコーン。
 それは授業の終わりの合図。
 ちなみに今日の講義が全て終わったという音でもある。春川先生はそこで黒板を書くのをやめた。
 その音を聞いてほぼ全員、やっと終わった、とでも言うように体を伸ばして、リラックスする。もちろん俺も例外ではなく、体を伸ばした。
 春川生徒はチャイムの音を聞き、教室に掛かっている時計で確認すればいいものを、わざわざ左腕につけている大して高そうでもない腕時計で時刻を確認した。春川先生はその時計が凄く大事なものであるらしく、休み時間とか春川先生とダベっているときも見せてくれようともしない。誰にもらったものなのだろう。
「じゃあ終わるぞー。規律」
 その春川先生は早口な声で俺は板書することひとまずやめて立ち上がった。俺の顔にやっと帰れる、という安堵の表情が浮かび上がる。
 それもそのはず。今日の講義は平日の月曜日で学校があるにも関わらず、19時開始で23時まであるのだ。休憩時間もあるが、そんなのは気休めにしかならず、4時間も眠たい頭を働かすので疲れる。俺は早く帰って寝たいという思いでいっぱいだ。
 でも現実はそんなに甘くなく、学校での宿題が残っている。明日の数学の授業までにテキストまるまる1章をやってきてこなければいけないのだ。
 家についてお風呂に入ったり歯を磨いたりすると、なんだかんだで24時になるなので、予習宿題は24時以降にやることになる。小問1に10分かけて、小問2に20分かけて、小問3に20分かけて、小問4に40分かける予定なら終わりそうだ。はうっ! 1時までに終わらない。
「じゃあ、礼」
『ありがとうございました』
 春川先生の礼の合図でみんなが揃って、気持ちなんて一切込めてない言い方でそう言った。授業の挨拶なんて小学生か中学生のときから、今まで何回もやってきたので、初めてのときはそりゃあ心込めるやつもいるだろう。しかし、倦怠期というものがあり、高校生にもなるとみんな挨拶の仕方が十中八九ぞんざいになる。
 でも毎回のことだし、先生達もそのことを分かっているのか何も言わない。それか言っても無駄なことを分かっているのかだ。うちの高校の体育の先生でもあるまいし、そんなに熱心に挨拶に対して取り組む先生はここにはいない。
 うちの高校の体育の先生は挨拶にはかなり厳しいのだ。礼儀を重んじるスポーツである剣道の顧問もやっているので当然といったら当然だが。
 その先生の前になると生徒達も分かっているので、その時だけは大きな声で挨拶するのが日課となっている。高校生にもなって挨拶を大きな声でするというのは小学生じゃあるまいし恥ずかしいが仕方ない。
 俺は板書の続きを書き終え、机の上のテキストと筆記用具を鞄の中に片付けた。バックパックを背負い、さっさと帰って学校の宿題をやろう、とか電車で何分待たされるだろう、とか考えて教室から出ようとするといきなり肩を叩かれた。
「ん?」
 もちろん後ろにまで視界は届かないのでいきなり肩を叩かれて内心びっくりした。それを声には出さずゆっくりと振り向く。肩を叩いたのは中学時代からの付き合いの、塾でも学校で同じクラスの増永裕一だった。増永はトランプを突き出してきて笑顔になる。
「ゆーなちゃん。トランプやらない?」
「ちゃん、じゃない。俺は男だ」
 こいつ俺がちゃんをつけて呼ばれるのを嫌ってるのを知ってて言ってくる。塾でも俺がちゃん付けで呼ばれたらどうしてくれるんだ。中学校でも高校でも俺が結菜ちゃんと呼ばれるようになったのはほとんどこいつのせいなのだ。
 確かに女っぽい名前ではあるけれども、それにさらに「ちゃん」を付けられて完全に女扱いされるのはどうも苦手だ。きっと俺の親は俺を女と間違えて産んだんだ。
 っていうか、なんでトランプを。しかもよく見るとトランプの裏は万邦に存在する犬の絵柄だ。そういえばこいつ犬が好きだったんだな。
 でも第一、学校の休み時間ならともかくこんな塾で、しかも深夜にやるか普通。増永も明日は俺と同じく学校での宿題があるはずなのに何故か余裕に見える。俺と増永はそう学力は変わらないので、俺が時間かかる勉強は増永も同じ分くらいかかるはずなのに。根は真面目なやつなのでサボるということはないと思うが、あまりに余裕に見える。
「トランプもいいけど勉強はいいのか? 学校で宿題出てたろ」
 俺は気になって聞いてみた。まさかサボるということはないと思うが、それしか考えられなかった。
 増永は一瞬宿題というものがあったのか、それはどこの範囲なのか、と考えるような目つきで虚空を眺めた。俺はそれを見てため息をついたが、増永は、
「ああ、あれね。昼休みに終わらしたぞ」
 と予想外なことを言った。つまりこいつはもう宿題はないということ。終わらせたということ。
 まさか、と思った。昼休みは40分ほどなので終わらせようとすれば無理なこともないが結構ぎりぎりなはず。こいつはやってのけたのだろうか。
 いや、無理なはずだ。数学のテキストまるまる1章、ページにして10ページは40分では終わらない。数学に関して天才でもないと無理なはずだ。増永は数学に関して天才ではない。
「誰に見せてもらった?」
 俺が考え抜いてたどり着いた答えに増永は多少驚いたようだった。これを図星というのだろう。まさにそういう顔をしたから。
「なんで分かった? ああ、まぁ考えれば分かるか」
「そういうこと」
「あいつだよ、同じクラスの相川。あいつ数学はやけに出来るから」
「あいつか……」
 相川という奴が出て来た。フルネームでは相川一久。入学式の3日後にあった学力テストで数学を見事100点を取った化け物。しかも理科までそれなりに点は取ったと聞いてる。凡人の俺達から言えば考えられない。しかし、相川の欠点は理数科目しか出来ないことだ。聞くところによると国語や英語は20点無かったとかなんとか。まぁ典型的な理系なのだ。
 その化け物は俺と増永と同じクラスにいる。でも俺は最低限の会話しかしたことがない。それに対して増永と相川は何かとくっついてることが多い。きっと勉強を教えてもらうとかいう下心があるのだろう。
「で、トランプしよ――」「帰るわ」
 俺は増永の会話を無視して、教室から出て行った。宿題を終わらせていたので何となくムカついたという面もある。一人淋しくトランプやってろ。
「ちょっとー、チェッ。ねねー君。トランプやらない?」
 増永が追いかけてくることはなく、他の人をトランプに誘っているようだった。多分迷惑だろうな、と他人事のように考える自分がいる。俺がトランプをやるのに参加してればその他の人が誘われるのはなかっただろうに。ご愁傷様、知らない人。
 教室をでるとすぐ先に先生達の職員室がある。塾の講義で解らなかった問題とか、学校の授業で解らなかった問題があったときはここで質問をするのだが、幸い今日の講義では解らなかった問題はなかった。学校の宿題も考えることはあっても特に問題はなさそうなので、今日はここを寄ることはない。
 職員室を通り過ぎると予備校の建物の出入口がある。文明の利器の自動ドアがあって、目の前に立つと開く。初めてこの自動ドアというものを見たときは、びっくりしてそれで遊んだものだ。もう12、3年も前の話になるが。
 その自動ドアをくぐって欠伸をしながら眠いなぁとか考えながら外に出た。
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白石歌香

Author:白石歌香
こんにちわ 大学1年生の 
白石歌香 っていいます。
もちろん半値です。中身は男ですー。

半値の由来は誕生石と自分の名前です。

杏エヴァン1位目指して奮闘中。

めいぽでは 現在ヨゼリア っていうキャラ使ってます。
でも未だにヨゼリアって名前に慣れないっていう。
呼ぶときはリカイナ、でお願いします。

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